内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)
内視鏡(カメラ)を使って胆道(胆嚢や胆管)・膵管(膵臓の管)に造影剤を注入し、これらの管の状態をレントゲンで見る検査です。近年では診断のための検査のみならず、この技術を応用した様々な治療が行われています。
1. 内視鏡的逆行性胆道膵管造影とは
内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP :endoscopic retrograde cholangiopancreatography)は、内視鏡(カメラ)を口から入れて食道・胃を通り、十二指腸まで進め、胆管や膵管に直接細いカテーテル(チューブ)を挿入し造影剤を注入してレントゲン写真を撮影することで、胆道及び膵管の異常を詳しく調べる検査です。本検査は1970年に開発されて以来、これらの臓器に関する病気の診断と治療に大きな貢献をしてきた標準的な検査法です。エコーやCT・MRIなどでもこれらの管に関する情報を得ることはできますが、直接的に検査ができ、必要により病気の部分から組織を採取して病理検査をすることができるため、ERCPがこの領域の最終的な精密検査法として位置付けられています。
2. ERCPを利用した検査
胆管や膵管に結石(胆管結石、膵石)や悪性腫瘍(癌)があるかどうかを調べることができます。癌が疑われる場合には、病理検査を行うため胆管や膵管の組織を採取することができます。さらに詳しい評価のために、先端に超音波診断機器のついた細い管を胆管や膵管の中に入れて超音波による精密検査を行うこともできます。
3. ERCPを利用した治療
ERCPは開発された当初は、胃のバリウム検査などと同様に画像による診断を行うためのレントゲン検査でした。近年、ERCPの技術を応用することで、胆管や膵管の様々な病気の治療(内視鏡的手術)を行うことができるようになりました。ERCPによる内視鏡的手術は内視鏡のみを使っておこなうので、皮膚に傷は残らず、全身麻酔による開腹手術と比べれば体への負担が少ない治療と言えます。
胆管や膵管に結石(胆管結石・膵石)が見つかった場合、ERCPにより除去を行うことができます。これらを開腹手術で行っていた時代に比べて、治療による偶発症率・死亡率は大幅に減少しました。
胆管や膵管に狭窄がある場合、プラスティックや金属の管(「ステント」と呼びます)を胆管や膵管に挿入して、消化液(胆汁、膵液)の流れを回復させることができます。胆管や膵管に狭窄ができると消化液の流れがよどみ、細菌感染が起こりやすくなります。胆管や膵管の感染症は敗血症に移行しやすく重症になりやすい病気ですが、ステント治療が行えるようになったことで命に関わるほど重症になる患者さんの数は減少しました。
4. 内視鏡的胆管金属ステント留置術
3.でご説明した胆管の狭窄に対するステント治療のうち、癌によって胆管が狭窄してしまった場合には金属製のステントを用いた治療が広く行われています。
癌(膵癌、胆管癌などが主な原因となります)によって胆管が狭窄すると、胆管から十二指腸への胆汁の流れが滞り、黄疸が生じます。また細菌感染(胆管炎)を併発することがあり、適切に治療を行わないと数日のうちに命に関わる重い病状になってしまうこともあります。
この黄疸に対する治療として、ERCPによる内視鏡手術で金属製のステントを胆管内に埋め込み、胆汁の流れを回復させる治療が行われています。ステントは金属のワイヤーで細かい網目を作りそれを筒状に丸めた構造をしています。ステントは形状記憶合金でできており、胆管に埋め込まれたのちにバネの様に狭窄部を押し広げる働きをすることで長期間にわたり胆汁の流れを確保します。
われわれのグループは金属ステントに膜を張る(カバード金属ステント)ことで金属ステントがさらに長く機能を保てることを証明し、学会や論文等で報告してきました。また金属ステントの開発や改良に関する研究を多数行っており、胆管金属ステント治療は当院の得意分野の一つと言えます。
内視鏡による金属ステント留置術
(左図) 癌による胆管狭窄、黄疸の患者さんに対して行ったERCPの画像。矢印の部分の胆管が糸のように細くなっており、それより上流の胆管は正常よりも太く拡張しています。
(右図) 内視鏡を用いて胆管狭窄の部位に金属ステントを留置しました。これにより胆汁の流れが改善し、この患者さんは黄疸から回復しました。血液検査でも肝酵素は正常値まで低下し、その後の治療を安全に行うことができました。
5. 当科の治療成績
ERCPは十分なトレーニングを積んだ内視鏡医によって行われます。当院では約15名のERCP施行医が、年間約1000件の検査・治療を行っております。治療の内訳は、胆管結石除去術が約100件、胆管金属ステント留置術が約50件などです。